事務所を出て、谷町筋を渡り
熊野街道から少し入ったところに
大好きな銭湯「いろは湯」が
昨年末まであった。
10年ほど前は
徹夜になる…と思った日は
気分転換にこの銭湯に行った。
その帰りに谷町界隈で食事して
また仕事をしたものだ。
夏の暑い日に自転車で
あちこち走り回った夕方に
ひと風呂浴びたこともあった。
暖簾をくぐると玄関はタイル張り
下駄箱には木の蓋があり
ガラス戸を開けると番台が。
男湯と女湯の真ん中に
どちらの脱衣場に向くこともなく
おばさんかおじさんが座っていた。
脱衣場にはデッカい扇風機。
ロッカーではなく、扉のある木の棚。
ゴムのついた鍵が付いていた。
浴場の正面の壁には壮大な富士山。
湯船はタイルで装飾されていた。
洗面器は黄色のケロリン。
湯船のお湯は暑くてなかなか入れず
ぼちぼち慣らしてから入った。
洗い場では曇った鏡を見ながら
水が出る蛇口と湯の出る蛇口を
両方同時に押して湯温を調整した。
風呂上がりには小さな冷蔵庫から
フルーツ牛乳やコーヒー牛乳を出して
番台に持って行きお金を払う。
「いろは湯」は正しい日本の銭湯だった。
コロナ禍でテレワークが増え
仕事場から銭湯へ行くこともなく
銭湯の前を通ることもなかった。
やっと元の生活が戻ってきた1月
ひさしぶりに前を通ると
「2022年12月末で閉店しました」
と小さな張り紙があった。
コロナ禍がきっかけだとは思うけれど
このあたりにたくさんあった
お風呂のない長屋や古い町家も
どんどん減っていったし
銭湯の需要も減ったのだろう。
仕事中に銭湯に行く妙なヤツも
居なくなっただろうし。
家のお風呂もスーパー銭湯も快適。
でも地域の人に愛されてきた
「日本の銭湯」には違う魅力があった。
もう一度入りたかったな。
半年早く前を通ればよかったな。
あれこれ考えていると
開店前いつもそうしてあったように
シャッターの向こう側に
暖簾が裏向きでかけてある気がした。