道標

上町台地は多くの歴史が重なった場所。
毎日歩く通勤路にも
色々な時代の歴史が何層にも重なり
往時を偲ぶに充分な歴史の名残が
有名無名を問わずたくさんある。
 
上町筋と谷町筋の間
熊野街道の少し東に道標がある。
東平北公園と東平南公園のあたり
交差点の角に立っている。
地図の表記は『熊野街道道標』
  
彫られた文字は風雨に削られ
もとより文字も難しくて
正しくは読めない。
でもそこは読める文字と位置関係
そして想像力を駆使して読んでしまう。
 
旅人はここで西を背に立つ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
『右(南)は天王寺』
『左(北)は京橋から天満』
 ※もしくは京都へ(八軒家浜から船)
『上(東)は玉つくり』
ーーーーーーーーーーーーーーー
熊野に向かう人、戻る人。
暗越峠を越え大和へ向かう人。
それぞれに方向を示している。 
  
道標上部に彫られているのは
きっと東西南北にあたる
十二支の御本尊の梵字。
 
…とスーパー個人的な解釈なので
さらっと聞き流してください。
 
でも、ふと思った。
道標はそれぞれの方向が
どこへ向かうか示しているけれど
スマホも精密な地図もない時代に
人間はもっと想像力を働かせて
自分が向かう先を決めた。
  
そしてそれは
物理的なリアルな行き先だけでなく
自分がどこへ向かって生きるかをも
情報に振り回されずに
自分で考えて決めるべきと
教えてくれている。
 
片道たった2㎞の通勤路なのに
とんでもなく時間がかかる。
でもね…ちょっと立ち止まって
あれこれ考える時間はとっても贅沢。

雪の下

あちらこちらから梅の便り。
春が近づいてるよ…と
梅の花は知らせてくれる。
  
温暖化や様々な要因で
四季が明確ではなくなっても
自然はちゃんと季節を感じて
私達に知らせてくれている。
 
『雪の下』という色がある。
 
夏の水辺に咲く
『ユキノシタ』ではない。 
 
春が近づいて
一度咲きだした梅の花に雪が積もり
真っ白な雪の下にある梅の花の
その淡い薄紅色が『雪の下』 
  
『雪の下』は平安時代から、
重ねの色目にも使われた。
「表が白で裏が薄紅」の
繊細な色合わせでもある。
   
雪をかぶった梅の花は
凍りついてもじっと耐える。
やがて暖かくなって雪が溶けると
そこから咲き始めて満開に。
 
昔の人は、咲きかけて
雪をかぶった梅の花を見て
慎ましやかでありながら
逞しくも厳かなその姿に
尊敬の念を抱き、
長い冬を耐え、春を待つ
自らの励みにしたのかもしれない。
    
また人生の苦難の中にある時
雪をかぶった梅の花に自分を重ね
雪が溶け、春に花開く時を信じ
耐え忍んだのかもしれない。  
  
四季のある国、日本には
その季節の移ろいの中で生まれた
日本人の感覚でしかわからない
繊細な和の色がたくさんある。
『雪の下』もそのひとつ。