一夜だけの花

南船場に事務所があった頃
近くの駐車場のおじさんに
サボテンをいただいた。
   
今年そのサボテンの横に
顔を出した赤ちゃんサボテンは
小さな鉢に引っ越しをして
スクスク元気に育ってる。
 
このサボテン。
年に一回、夏の夜に蔓が伸び
その先に一夜だけの花が咲く。

私は毎年一回、夏の朝
ベランダの扉を開けて
30㎝~50㎝伸びた蔓の先に
しおれた花を見つける。
  
おじさんが覚えていないくらい
駐車場の片隅に長く居たサボテン。
おじさんも一度も咲いた花を見ず
蔓の先のしおれた花を見てきた。

蔓の先に花が咲く意味を
おじさんは話してくれた。
 
 せいいっぱい蔓を伸ばし
 水の少ない砂漠でお互いに
 水をとりあわず生きていけるよう
 子孫を残していけるよう
 できるだけ遠くに花を咲かせる。
  
今の事務所の前を下った所に
植木に囲まれた駐車場があった。
おじさんは何年も前に亡くなり
そこにはマンションが建ち
たくさんの植木たちももういない。 
 
耳さえ傾ければ
自然は私たちに色々なことを
語りかけ、教えてくれる。

今年もサボテンは月夜に蔓を伸ばし
その先に花を咲かせる。
きっと、白くて美しい花。