金毘羅坂のお百度石

月に一回くらい、朝早くに高津宮へ行き
それから事務所へ向かう日がある。
歩くコースはたくさんあるけれど
お気に入りのコースがある。

高津宮から北へ地蔵坂を横切り
瓦屋町を通って空堀通商店街へと続く脇道
坂がきつくなるあたりに
島津家家紋に奉献の刻字の入った道標と
その反対側にお百度石がある。
  
天明八戊申(1788) の銘の百度石。
今は建物の際にひっそりと佇み
注意していないと見落としてしまう。
  
この細い坂道の名は金毘羅坂。
 
往時ここは金毘羅さんに続く坂だった。
もう坂の由来となった金毘羅さんはなく
商店街の片隅にお百度石と道標。
そして坂の名前以外に名残はない。
 
坂の由来となった金毘羅さんは
大坂三金毘羅の一つで
往時は賑わったようだが
明治時代に高津宮に合祀されたとか。
いまの空堀通商店街は
江戸時代の参道の名残とも。

往時は行き交う人も多く
きっと露店なども並んで
さぞ坂道は賑やかだっただろう
お百度参りの人も多かっただろう。

願いや祈りを胸に
社殿で手を合わせる多くの人の背中を
お百度石はずっとここで
見守ってきたんだね。

かなり早く家を出たはずが
あれこれ想いを巡らせていると
何故かいつもの出勤時間。

お百度石にそっと触れてから
目を閉じ手を合わせて
ちょっと急ぎ足で事務所へ向かう。

空堀通商店街をのぼり
谷町筋を渡って熊野街道へ。
そこはいつもの通勤路。

八重の梅

八重の桜ではないし
綾瀬はるかのファンでもないです。
「プリンセストヨトミ」の次に
この投稿になっただけ。
   
快晴の休日。南紀へ向かった。
この季節、田辺あたりから南は
車の窓を開けると梅の香りがする。
小さな控え目な花だから
目には止まらないけれど
香りで開花を知らせてくれる。
 
もう春だな…と
暖かい春が嬉しい気持ちと
ゆく冬を惜しむ気持ちが
なんとなく複雑で少ししんみりする。
 
海沿いのいつものスーパーに入ると
とてもいい香りがしてきた。
生鮮売場で魚介類を焼く香りではなく
存在感のある梅の香り。
  
香りのする方へ行ってみると
切り花売場には立派な梅の枝。
枝の名前は「八重の梅」
たしかに花びらが重なってる。
値段を見て驚いた…150円。
もう魚介類はどうでもよくなり
梅の枝を買って車に乗せた。

家に連れて帰ると
以前からそこにいたかのように
二階の和室で枝を広げ
蕾をひとつひとつ丁寧に開き
毎日家に帰ると
春の香りで迎えてくれる。
  
そして開ききった花は
ひとつひとつそっと散っていく。
 
畳に落ちた花びらを
手の平にのせようとすると
少し空気が動いただけで
すっと逃げてしまう。
そういえば桜の花びらのように
地面を覆う梅の花びらを見たことはない。
 
華やかではないけれど穏やかな花。
そっと春を告げて
そっと散っていく
そして実を残す
以前から好きだった梅。
今年はいっそう愛おしい。