糊こぼしの御守り

東大寺二月堂に『糊こぼし』という
可愛い御守りがある。
 
この御守りは修二会本行中に練行衆が作り
ご本尊十一面観音様の仏前にお供えする
造花の椿を模った『糊こぼし』の御守り。
 
本行中の練行衆が造花の椿を作る際
糊がこぼれて白い斑点模様となり
『良弁椿(開山堂の庭椿)』を思わせるのが
『糊こぼし』の名前の由来。
 
数年前から車の鍵に付けていた。
いつも聞こえる小さな鈴の音が聞こえず
ふと見ると鈴がなくなっていた。
車の中や家を探してもなかった。
  
『御守りを落としたときは 
 身代わりになってくれたと思いなさい』
子供の頃、祖父に教えてもらった。
でも椿が寂しそうだった。
 
数日後のいいお天気の朝
仕事に行こうと家を出ると
満開を過ぎた桜が風で散り
自宅前の道がピンク色になっていた。
 
きれいだけれど溝が詰まってしまう。
鞄と車の鍵を一旦玄関に置き
箒と塵取りを持ち花びらを集めはじめた。

桜の花びらを集め、さらさらと
ちりとりからビニール袋に入れていると
ちりとりの隅に丸いものが光った。
御守りの鈴だった。
 
おかえりなさい。

枝を離れた桜の花びらが
大切に守って渡してくれた。

ありがとう。

お隣の桜の老木をしばらく見上げて
いつも通り仕事に向かった。